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「ショスタコーヴィチの証言」この書物は,ローレル・E・フェイのように「偽書」であると断定(The Russian Review 1980)する人もいますが、ショスタコーヴィチがS・ヴォルコフに語ったと言うことの大部分は真実であると言う説もまた一方にありますので、このあたりを弁えて読む限り、興味ある話が一杯詰まっています。フィクションに近いような話が真実であるかのごとく書かれていることもあるかも知れません。秘密と隠蔽のヴェールに包まれていた当時のソ連時代の記録でもあり、編者のS・ヴォルコフがフェィの質問に答えていないという事実もありますので、心構えとして、そのあたりは注意して見て置いた方が良いかも知れません。 私は次の話に興味をもったのですが、果たして本当の話だったのかどうか?考証して見たい欲求があります。 スターリンはあるとき、滞在中の別荘でラジオをから聞こえてきたモーツアルトのピアノ協奏曲第23番イ長調K488を耳にして、「昨夜マリヤ・ユージナが弾いていたモーツアルトのレコードがあるか?」と放送局のラジオ委員会に電話をかけて来たのです。「はい、ございます」委員会はそう返事をしました。しかしそんなレコードは存在せず、スターリンが聴いたのはスタジオからの生放送だったのです。 恐怖の独裁者である彼に「ありません」と答えることは、その時の彼の気分一つでどうなるのか誰にも判らぬだけに同意と服従以外に選択の余地は無いも同然でした。 「あります」と言ってしまったからには、そのレコードを作らねばいけません。ラジオ委員会はパニックになりましたが、すぐにユージナを電話で呼び出し、急遽オーケストラを召集して深夜に録音が開始されることになりました。 ピアニストのユージナは「肝っ玉母さん」みたいな女性で、こんな場合でも平然と構えていましたが、中心となるべき筈の指揮者が恐怖のあまり虚脱状態となり自宅に送り返される始末で、曲を進めることが出来ず、次に呼ばれた指揮者も同じようにタクトを振ることが出来ず降板、三人目で何とか最後まで録音出来るという情況だったそうです。 かくして朝を迎える頃になってどうにか録音を終えることが出来、そのあと後々語り草になるほどの短時間でたった一枚のレコードを仕上げスターリンの許に届けられました。専制君主に対する徹頭徹尾服従の記録でもあり、悪魔の哄笑が聞こえて来るような話でもあります。 ほどなくユージナのところへスターリンから二万ルーブルが入った封筒が届けられました。この時のユージナの返事の手紙が凄いものだったのです。ショスタコーヴィチによれば彼女から話された手紙の内容は、まぎれもない真実だと言うことです。 「ヨシフ・ヴィスサリオノヴィッチ、あなたのご援助を感謝いたします。わたくしはこれから、昼となく夜となく、あなたの事を、国民と国に対するあなたの苛酷な罪を許してくださるよう神に祈ります。神は慈悲深いかたですので、お許しくださることでしょう。お金は、わたくしの通っている教会の修理のために献金することにいたします」。(水野忠雄訳) ユージナの自殺行為ともいうべきこの手紙に対するスターリンの反応はどうだったのでしょう。 ほんの僅かでも彼が眉をひそめれば、たちどころに逮捕状が出ることは明白であり、顔をしかめれば、即刻、この世から抹殺されても不思議ではないのです。 しかし、スターリンは沈黙を守り、手紙を脇に退けただけでした。予想外のことに彼女は咎め一つ受けませんでした。 スターリンが1953年3月に別荘で息を引きとったとき、レコードプレーヤーにはユージナの弾いた例のモーツアルトのレコードが載っていたとのことです。 このたった一枚のモーツアルトのレコードが果たして存在するのか? 私は「証言」の本を「中公文庫」読んだ時(1986年)から、CDショップを探して回りました。ユージナと言うピアニストが日本で最初にCDで紹介されたのは1995年の初頭だったと思います。シューベルトのピアノソナタ第21番変ロ長調D960がリリースされたのです。確かレコード芸術で特選だったと思います。私もこの演奏は見事の一語に尽きるとそれ以来大切にしています。この後バッハ半音階的幻想曲とフーガBWV903、ベートーヴェンのピアノソナタ第7番ホ短調op90が続いて出ましたが、日本盤はこの2枚だけに止まったようです。 その後私は運に恵まれたと言うのかフランスのDANTEというレーベルを介してイタリアのArlecchino盤で彼女のシリーズに出会い、そこに捜し求めていたK488があったのです。録音されたのは1948年でありスターリンはまだ存命中でした。 これがたった一枚のレコードからの復刻なのかどうか、私には検証する術はありませんが、当時の事情から推して同じ曲を再録音するだけの需要があったとは言い難いので、この録音はスターリンのために作られたモーツアルトなのかも知れません。違うと言うならそれでも良いですが「詩と真実」私は信じて置こうと思っています。一つだけ言えることは、第1楽章アレグロに要した時間が極めて短いこと。9分45秒で終わっています。外のピアニストによるレコードは大体11分以上かけています。バレンボイム11分01秒、ハスキル11分10秒、アシュケナージ11分18秒、内田光子11分23秒、ぺライァ11分36秒といった具合にです。 このことは推測に過ぎませんが、おそらく録音にかける時間にリミットがあり、ユージナを除く全員が1分1秒を争うように慌てふためいた結果、大急ぎで仕上げたためではないでしょうか。 ちなみにユージナ盤は、指揮・アレクサンダー・ガウク(Moscow RadioSymphonyOrchestra)です。 彼女にはまたベートーヴェンのハンマークラヴィアソナタの崇高で素晴らしい演奏がありますが、惜しいことに日本盤はありません。HMV、TOWERあたりで外盤を探すと2・3点掘り出すことも出来るかも知れませんが、K488はその後、残念ながら見かけたことがありません。 |
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私が一番にコメントを残すのはとっても場違いな感じで、周囲をキョロキョロ見回している心理状態です。こんばんは。 |
alex 2008/05/15 21:28 |
alexさん |
sonnet 2008/05/16 01:26 |
マリア・ユージナというピアニストのお名前は初めて知りました。 |
aosta 2008/06/11 13:03 |
aostaさん |
sonnet 2008/06/13 12:00 |
(訂正) |
sonnet 2008/06/14 07:30 |
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